311で生まれた「道」の先に

私の書いた曲で、「道」という歌がある。
これは私が311で作った曲です。

311からしばらく経ち、
NHKで、津波で家族とはぐれた男性が澄み渡る青空の下、黙々と家族を探しているドキュメンタリーを見た時に、
瞬時に創り上げた曲。

日頃ミュージシャンの自覚の無い私。
このようなことをやる自分を知ると、
ああ、やっぱり私はミュージシャンなんだな、
シンガーソングライターなんだなと思う。



天と地の差とはこのようなことを言うのか、
というような映像だった。
見上げれば、澄み渡る真っ青な雲ひとつ無い綺麗な空。
見下ろせば、この世とは思えないほどの大惨事の跡。
この落差に私は衝撃を隠せなかった。

「家族は死んだんじゃない。居なくなっただけです。」

と、カメラに向かって何度も言い、
そして、どこまでも果てしなく倒壊した家などの木材が横たわる一面に向かって家族の名前を呼び続ける男性に、
私は涙が止まらなかった。


家族を亡くしたこともない私の口から、
「そうですよね。」
とか、
「わかります。」
とか、
はあ?って感じです。
わかるわけは無いのです。

相手からしてみたら、どんな言葉も偽善でしかなく聞こえても仕方ないです。
当たり前です。
慰めることなんて出来ないのです。


だけど、そんな相手に、黙って傍にいてあげることは出来る。
一緒に泣いてあげることは出来る。
完全に理解は出来なくても、近づくことは出来る。

そんな風に、掛ける言葉がなくても寄り添える歌を歌いたいと、
その想いから書いたのが「道」です。


そして先日、福島で行われた「風とロック芋煮会2017」に参加させて頂いたのですが、
控え室に、私を訪ねてきた方がいました。
フォトジャーナリストの岩波友紀氏。

私はてっきり参加者みんなにインタビューをしているんだとばっかり思っていたら、
私に会いに来たと言うのです。
本当に光栄で嬉しかった。

なぜ福島出身でもないのに、そこまで福島を想い続けるのか、
という素朴な疑問から、空いてる時間はずっと岩波氏のインタビューに答え続けました。


私が幼い頃に、心に強烈な感動を与えてくれた感謝でいっぱいの場所だから…


おとぎ話だと思っていた天の川を見せてくれた福島。
山奥の巨大な杉か何かの木々に、木の先端にまでびっしりホタルが止まり、
天然の巨大なクリスマスツリーを見せてくれた福島。
二つ目の信号を左に…と、案内をされ、それが車で何キロも果てしなく先だった、広くて広すぎた福島。

幼い私には、福島は日本一ファンタジックな世界だった。


だからそんな福島が汚されてしまって、悔しくて堪らなくて、
何か出来ないか、
あの福島を取り戻せないか、
またあの夏を楽しみたいと、今もずっと想い続けてる。


そんな話をずっとしていたら、
岩波氏が、私のある話をした瞬間絶句したように固まってしまった。

なんと、岩波氏がずっと撮り続けていたのは、
私が「道」を書くきっかけになった男性のように、そんな娘さんを探し続けているお父さんだったからだ。

もしかして同じ人かもしれない。

いや、そのようなお父さんは沢山いるはず。
私がテレビで見た人が誰であっても、
そんなご家族の愛に触れて書いた一曲にはかわりはない。

岩波氏がずっと撮り続けていたお父さんは、昨年末、遂に娘さんを見つけたそうです。

それが親なんでしょうね。
その執念こそ、愛そのものですね。
でも、なんと言っていいのでしょうね。
と、いろんな話をしました。

どんな言葉もしっくりこないですね…と。

でも私は、いよいよ本当の悲しみがここから始まるんだなと思いました。
ようやく泣けるんだなと思いました。
見つからなくて、悲しむことも出来なかったお父さん。
悲しめないって悲しむよりも悲しいんだなって思いました。

娘さんに会えるまで、
あの日のまま、時計は止まったまま、時間とは違う次元で生きていたお父さんは、なんの実感も無い日々だったと思う。
だけど、ようやく娘さんに会えた。
すべてをこんなに時が経ってから受け止めなければならないのは、
本当に想像すら出来ない。




触れ合えなくても静かでも、
あなたが想えば、私はいつもそこにいる…

「君が思えば」

という曲も、死者の想いを歌にしている。


今回私は同じステージで、「君が思えば」と「道」を歌った。
たまたま選んだ曲だったが、歌いながらこの二曲は繋がってると思っていた。

誰かの心に寄り添える歌を、これからも紡いでいきたい。




岩波氏の想いと、私の想いが少しでもシンクロしているならば、
どうぞ私の歌詞を写真に添えて頂けないでしょうか、と頼んだ。

すると、
実は今、それをお願いしようと思っていたところです。



何かまたひとつ、誰かの想いと寄り添えると思った。




岩波氏の写真集を閉じる。
涙が止まらなかった。
とても心にくる本です。
良かったらご覧ください。

新日本出版社
「1500日  震災からの日々」
著者 岩波友紀